バリュー・イノベーションは、W.チャン・キムとR.モボルニュが“ブルー・オーシャン戦略”の中で提唱した新市場創造のための中心的な手法・概念です。
競合他社のベンチ・マーキングは行わず、買い手やユーザーにとっての価値を大幅に高めることで、「差別化」と「低コスト化」の同時実現を達成し、
既存市場での競争を無意味にするというスタンスをとっています。
そのコアとなる考え方は「価値要素の大胆なトレード・オフ」です。具体的には、まず戦略キャンバスというチャートを用いて自社や競合プレイヤーの現状の戦略プロフィールを洗い出した後、4アクション(別名:ERRC)と呼ばれる4つの操作を行うことで「価値要素の大胆なトレード・オフ」を実行し、新しい価値提案(バリュー・プロポジション)を打ち出します。
<4アクション>
【Eliminate】(取り除く)
業界常識として既存の自社製品・サービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か。
【Reduce】(減らす)
業界標準と比べて大胆に減らすべき要素は何か。
【Raise】(増やす)
業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か。
【Create】(付け加える)
業界でこれまで提供されていないが今後自社製品・サービスに付け加えるべき要素は何か。
これらの操作を効果的に行うためのツールも著書『ブルー・オーシャン戦略』の中で紹介されていますが、新しい理論的枠組みのためにまだ精緻化の余地があり、それだけでスムーズかつシステマチックに4アクションを実施するのは簡単ではないと言えます。
しかしながら、戦略キャンバスというチャートを同時に用いることで、これまで体系的な方法論のなかった新市場創造のための方法論に大きな布石を打ったと言えます。
さらに注目されるべきは、M.E.ポーターの“3つの基本戦略”では実現不可能とされていた、「差別化」と「低コスト化」を同時に実現することが可能と主張していること、そしてそのための具体的手順を示したことです。
ブルー・オーシャン戦略とバリュー・イノベーションが大きな注目を集める理由は、これまで体系的な方法論のなかった新市場創造の方法論を示したことと、“ポーターの3つの基本戦略”および“5フォース”を含めた“競争戦略論”の限界を乗り越えることができることを示したこと、この2点にあります。