フリービジネスモデル

フリービジネスモデル

フリービジネスモデル(無料経済システム)は、消費者/顧客が無料で商品・サービスを得られるビジネスの仕組みのことを言います。クリス・アンダーソン(Chris Anderson)が“Free:The Future of a Radical Price” 『フリー <無料>からお金を生み出す新戦略』にて示した4つに類型が知られていますが、ここでは独自の整理・分析も踏まえて5つないし6つの類型を示します。

  1. 直接的内部相互補助モデル
  2. 第三者広告料モデル
  3. 第三者手数料モデル(エージェント・モデル)
  4. フリーミアム・モデル(フリー&プレミアム・モデル)
  5. 贈与経済モデル
  6. ハイブリッド・モデル

 

1.直接的内部相互補助モデル

このモデルは、同一顧客に対して、有料のオファー(商品・サービス)と無料のオファーを組み合わせて提供します。無料分のロスは、有料オファーの料金で回収する仕組みです。これはビジネスモデルというほど大げさなものではなく、一般的に行われてきたマーケティングにおけるセールス・プロモーション施策のひとつと考えることができます。たとえば、ガソリンスタンドでタイヤに空気を入れるサービスは無料ですが、同時に燃料の給油や洗車を行ってもらうことで利益を獲得します。小売店のロス・リーダー(目玉商品)施策は、このモデルの思想と同じです。特定商品に限っては売り手が損をしてしまうような破格の値段で提供し、しかし同時に他の商品を併せて購入してもらうことで利益を獲得しようとするものです。実際には、購入者は有料商品の購入において、無料分の料金を上乗せして払っていることになります。

このモデルは、二つに分けることができます。

 

①同時的モデル

同時的モデルは、1回の購入時に、無料オファーと有料オファーを組み合わせるもので、小売業のロス・リーダー的なやり方、複数購入したら1個無料、AとBをを購入したらCが無料、などといったパターンがこれに該当します。

 

②時系列モデル

時系列モデルは、複数回のリピート購入を前提にした考え方です。

これは、初回無料にすることで継続的なリピートを期待する事前インセンティブ・タイプと、累積購入金額が一定金額たまったら無料得点をつけることで離反抑止を期待する事後インセンティブ・タイプとがあります。

直接的内部相互補助モデル

直接的内部相互補助モデル

 

2.第三者広告料モデル

これは、現在は多くのインターネット・ビジネスで用いられているモデルですが、古くはラジオ局が導入し、続いてテレビ局が導入したモデルで、戦前に確立されたモデルです。

オファーの提供対象者(商品・サービス・コンテンツなどのユーザー)からは料金は徴収せず、第三者の広告主の広告を掲載してその広告料を得ることで利益を上げるモデルです。言い換えれば、ユーザーの利用料金を広告主が肩代わりするシステムです。

第三者広告料モデル

第三者広告料モデル

 

3.第三者手数料モデル(エージェント・モデル)

オファーの提供主体である企業とその顧客(消費者・顧客企業)の間にエージェントが入って取引を仲介するモデルです。

エージェントは、エンドユーザーからは直接料金は徴収せず、クライアントであるオファーの提供主体である企業から手数料を徴収します。実際は、手数料はエンドユーザーの支払う価格に含まれていることになります。

第三者手数料モデル

第三者手数料モデル

 

4.フリーミアム・モデル(フリー&プレミアム・モデル)

無料版と有料版(プレミアム・バージョン)のオファーがあり(これをバージョン化と言います)、有料版の顧客が支払う料金が、無料版のサービスを支えている仕組みになります。このモデルが成立するほとんどの事業は、製品・コンテンツなどの複製・拡大再生産にかかる限界コストが限りなくゼロに近いデジタル・コンテンツ/サービス/製品ですので、無料版のユーザーが多いことはコスト的に問題にはなりません。実際、無料版にてユーザーを広く獲得し、デファクト・スタンダード(事実上の標準)を獲得することが、収益源である有料版のユーザーを獲得する重要な施策となります。一般に、5~15%の有料ユーザーが、その他の95~85%の無料ユーザーを支えていることが多いようです。

フリーミアム・モデル

フリーミアム・モデル

 

5.贈与経済モデル

これは、最も本当の意味に近い無料経済システムですが、この事業のみを指してフリー“ビジネス”モデルと言えるかどうかは定かではありません。ウィキペディアやその他ウィキを利用した多数のクラウド・ボランティアによって成立するサービス、同じく多数のクラウド・ボランティアによって成立する他のウェブサービスやオープンソース・ソフトウェアなどがこのモデルです。直接的な金銭的インセンティブに基づくビジネスではなく、マズローの欲求階層の上位層の欲求を満たすシステムだと考えられます。ただし、このシステムに参画し、コンテンツを提供する者は、単に利他的な行為や自己満足として労力を提供しているのではなく、自分もユーザーになったときに効用が得られる、得たい、というインセンティブもあります。この場合、参画者はコンテンツの生産に参画し、消費にも参画する“プロシューマー”と言われる存在となります。またコンテンツやシステムの提供者(プロバイダー)となること自体が、外部に向けての自らのブランディングに貢献し得るという場合もあります。

贈与経済モデル

贈与経済モデル

 

6.ハイブリッド・モデル

上に示した各モデルは、単独で用いられる場合もありますが、しばしば組み合わせて用いられます。例えば、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の多くは第三者広告料モデルとして広告料収入を得ていますが、フリーミアム・モデルを採用してプレミアム・ユーザーに課金しています。

ウェブ・サービスにおいて複数のサービス・ポートフォリオを持っている企業やソフトウェア企業において複数の製品ポートフォリオを持っている企業は、ある製品・サービスでは贈与経済として完全なるフリーで提供し、他の製品・サービスで収益を得るということもあります。これは、広義の直接的内部相互補助モデルとも考えられます。

このように、これらのモデルは相互に排他的なわけではなく、むしろそれぞれのモデルを組み合わせることで、より多用な収益源とインセンティブ・システムを確立し得ると考えられます。