マーケット・イノベーション

マーケット・イノベーション

By: hasegawa | No Comment | Business Planning, Notes

マーケット・イノベーション(市場イノベーション)は、私が考えるイノベーションの概念です。

イノベーションは、日本語で言えば「革新」ですが、1958年の『中小企業白書』で「技術革新」という表記が用いられて以来、しばしば「技術」に特化した革新と誤って用いられています。

企業は、製品やサービスといった「価値」を市場(買い手=消費者や購入業者)に提供しています。技術とは、製品を作る際の一要素です。技術を革新したとしても製品が革新される保証はなく、製品の機能を革新したとしても価値が革新される保証はありません。最終的には市場に受け入れられる「価値」を革新できるか否かが重要です。価値を革新することは、すなわち市場を革新することに繋がります。なぜなら、価値が有るか無いかは市場で受け入れられるか否かで判断されるものだからです。価値と市場は表裏一体の関係にあると言えます。それをひとつの言葉で言い表すと、「市場価値」となります。市場が受け入れるに値する価値です。そのように考えたとき、技術の革新の最終的な目標は、価値を飛躍的に向上させ、市場を開拓することです。すなわち、「技術革新→価値革新=市場革新」という流れになります。

ところで、価値革新を英訳すれば「バリュー・イノベーション」となります。このバリュー・イノベーションという言葉は、W.チャン・キム&レネ・モボルニュが著書『ブルー・オーシャン戦略』において独自の意味で用いて以来、彼らのコンテクストでの意味がなじんでいます。その独自の意味とは、「差別化と低コスト化を同時に実現する価値の革新」という意味です。したがって、価値の革新ではあっても、彼らの文脈では、独自性があっても高コストであってはならない、という条件がつけられています。これに対し、「差別化と低コスト化」にとらわれず、とにかく最終的に買い手の感じる価値が飛躍的に高まるようなイノベーションを、私は「マーケット・イノベーション」と呼びます。マーケット・イノベーションとは、キム&モボルニュの定義とは違い、広義の「価値革新」と同義です。キム&モボルニュの概念と区別するために用いる用語です。価値と市場は表裏一体の関係にあるため、価値を革新することは、すなわち市場を革新することになるため、「バリュー」を「マーケット」と呼び替えました。

さて、上述のようにイノベーションについて考えたときに、イノベーションを「狭いイノベーション(Small Scope Innovation)」、「中くらいのイノベーション(Middle Scope Innovation)」、「広いイノベーション(Large Scope Innovation)」に分けることができます。そして、それらすべてを包摂する概念が「ビジネス・イノベーション(Business Innovation)」です。ビジネス・イノベーションは、一般的なイノベーションがしばしば「技術」に特化したイメージを抱きやすいことに鑑み、技術的な革新に限らず広く「革新」を指す言葉として用います。その主な構成は以下の通りです。

【Business Innovation】:ビジネス・イノベーション

Small Scope Innovation

  • 技術イノベーション:technological innovation
  • 製品イノベーション:product innovation
  • (サービス・イノベーション:service innovation)

Middle Scope Innovation

  • 生産プロセス・イノベーション:production process innovation
  • ビジネス・プロセス・イノベーション:business process innovation
  • 収益モデル・課金システム イノベーション:revenue stream innovation / charge system innovation

Large Scope Innovation

  • ビジネスモデル・イノベーション:business model innovation
  • バリュー・イノベーション:value innovation
  • マーケット・イノベーション:market innovation

ただし、Small Scale InnovationとLarge Scale Innovationは排他関係にあるのではなく、Large Scale InnovationがSmall Scale Innovationのいくつかを包含する関係にあります。

たとえば、収益モデル・イノベーションはビジネスモデル・イノベーションのひとつの構成要素と言えますし、製品イノベーションやサービス・イノベーションはバリュー・イノベーション/マーケット・イノベーションの構成要素となり得ます。

また、上に記した以外にもイノベーションのバリエーションは考えられます。特にMiddle Scope Innovationは、「ビジネスモデルの構成要素」として考えると幅広く考えられます。