破壊的イノベーション

破壊的イノベーション

「破壊的イノベーション」(Disrupthive Innovation)とは、C.M.クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』原題:“The Innovator’s Dilemma”で最初に提示し、続く『イノベーションへの解』、『明日は誰のものか』の3部作を通して詳細に明らかにしたイノベーション・モデルです。

 

【持続的イノベーション】 Sustaining Innovation

クリステンセンによれば、既存の顧客の要望に忠実に改良を組み重ねていくのが“優良企業の”イノベーションの基本方針であるが、そうした要望拝聴と製品改良を繰り返していくと、いつしか製品の性能のほうが顧客の望む性能レベルを超えてしまい、高コスト・高価格・過剰スペックの製品が出来上がってまうと言います。顧客の要望を忠実に拝聴した結果であるのに、顧客の要望をオーバーしてしまうという逆説的な事態を、クリステンセンは「オーバーシューティング(過剰解決)」と呼びました。このように、消費者や顧客が望む性能進化のスピードよりも技術進化のスピードが常に上回ると考えられています。このような既存の価値観の元での直線的な改良によるイノベーションを「持続的イノベーション」と呼びます。

 

【破壊的イノベーション】 Disruptive Innovation

「持続的イノベーション」の対極的な概念が「破壊的イノベーション」です。「破壊的イノベーション」には2種類あるとされています。ただし、クリステンセンは、2種類のイノベーションが組み合わさった破壊的イノベーションのタイプが多いと指摘しています。

 

<破壊的イノベーションの2類型>

 

【ローエンド型破壊的イノベーション】

ローエンド型破壊は、既存市場において大きなシェアを持ちながらもオーバーシューティングに陥った優良企業の高価格・複雑な製品に対し、より低価格や簡便性を実現する“破壊的技術”によって、これまで空白になりつつあったローエンド市場に参入します。そして、ローエンド市場で圧倒的なシェアを獲得する間に改良を重ね、性能的にも上位市場の顧客のニーズを満たすレベルになりハイエンド市場へも少しずつ進出し、次第に旧来のプレイヤーの製品はより上位市場へと逃げるように対象市場を狭めていき、駆逐されていきます。なお、“破壊的技術”は、必ずしも高度な技術ではなく、むしろ単純化・小型化などをもたらす技術的革新が多いと考えられています。

 

【新市場型破壊的イノベーション】

新市場型破壊は、新たな破壊的技術を用いた製品を、既存市場の一部としてのローエンド市場ではなく、新しい価値軸に基づいた、これまでと異なる新規市場に参入します。クリステンセンは、これを「無消費」すなわち消費のなかった状況に対抗するイノベーションであるとしています。たとえば、ソニーのトランジスタラジオやウォークマンは、小型化という技術的イノベーションを新しい価値の軸で市場投入したことにより新しい市場を創造しました。

また、川上のサプライヤーや川下の顧客やエンドユーザーまでの同一製品をつなぐネットワークを「バリューネットワーク」と呼びます。このバリューネットワークは、ひとつの市場ニーズに向けての“価値共同体”であり、同じ目的を共有するネットワークです。既存の“優良企業”は、市場規模の大きい既存事業のバリューネットワークを捨てて新しいバリューネットワークを選択することはなかなかできません。しかし、新市場型破壊のプレイヤーは、破壊的技術を生かす新しいバリューネットワークを開拓し、そこにこれまで消費されていなかった新しい市場を創造します。クリステンセンは、「この新しいバリューネットワークは、新製品が従来よりシンプルで形態性に優れ、製品コストが低いために実現する」と述べています。そして、既存市場での上位企業が新市場の旨みに気づき、既存のバリューネットワークから飛び出して新しいバリューネットワークに基づく新市場に参入しようとしたときには、すでに先に進出していた破壊的イノベーターに大きなアドバンテージをつけられてしまいます。


 

【イノベーションのジレンマ

このように、既存市場でハイエンド市場へ向けて「持続的イノベーション」を繰り返していくイノベーターが、破壊的技術によってローエンド型破壊や新市場型破壊をもたらす破壊的イノベーターに駆逐されてしまう現象を「イノベーターのジレンマ(邦訳ではイノベーションのジレンマ)」と言います。

2つの破壊的イノベーションと持続的イノベーション “イノベーションのジレンマ”

2つの破壊的イノベーションと持続的イノベーション “イノベーションのジレンマ”