集合知

集合知は、オープンソース・ソフトウェア、web2.0、wiki、クラウドソーシングなどで典型的に用いられる概念で、単純化すれば「個人の知より集団の知のほうが勝る」という考え方です。しかし、集合知の概念はそれを用いる人や状況によって異なります。英語においては、“collective intelligence”と“wisdom of crowds”いう二つの言葉が用いられており、その違いの定義も一般化されていません。ただし、後者は日本語として「群集の知恵」と訳される場合もあります。ここでは、集合知を以下のように整理して考えます。

 

まず、集合知は「量的集合知」と「質的集合知」に分けることが出来ます。そして、後者はさらに2つに分けることが出来ます。

 

【量的集合知】:計量予測型集合知

これは、「東京に電柱は何本あるか?」「あそこに見える電柱の高さは何メートルか?」など、調べてみなければ正確な正解がわからないような問題を予測する能力を指します。回答者が多く集まると、個々の回答者はバラバラな答えをしますが、その個々の予測値を全体として集めたときのの平均値は驚くほど実際の正解に近くなります。回答者が多くなればなるほど、その予測は正確さが増します。個々のバラバラな知が、全体としてはものすごい天才、あるいはその道のエキスパートのような振る舞いをします。

 

【質的集合知】

①選択肢拡散型集合知

アンサーパーク的なインターネットサービスに代表される集合知です。ある質問者が、「こんな場合はどうしたら良いでしょうか?」と質問を投げかけ、それに対し、多数の回答者たちが「こんな方法はどうですか?」といった解決方法の案を挙げていきます。回答者は、自分では思いつかなかった多様な案を得ることができ、問題解決のレベルが向上します。これは、単に回答者の数が多くなるだけでは解決のレベルは上がらず、回答者の多様性が幅広くなることによって、知のレベルが向上します。これは、個々の知がバラで存在し、その中から特定の知を選択するという意味では、全体としてひとつのまとまった「インテリジェンス」ではなく、「個別インテリジェンスの集合」と言えるかもしれません。しかし、個々の案が挙げられるプロセスで、他人の案に触発されて別の案を思いつくということもあります(この効果を狙った発想手法がブレインストーミングやブレインライティングです)。したがって、個々の知は完全に独立しているかというと、そうでもなく、他者の知に影響を受けているという意味では「ゆるやかに一体的な集合知」と言うこともできます。

②精緻化型集合知

wikiやオープンソース・ソフトウェアに代表されるように多数の人の知によってあるテーマが上書き的に深堀りされ、その精度が増していく集合知です。例えばwikiにアップされた記事は、初回アップ当初は簡単な記述であることがよくあります。しかし、その後多数の人たちが上書き的に知を重ねていくことで、その記事の内容は詳細かつ正確になっていきます(もちろんその過程で間違うこともありますが)。これもやはり参加者の数が多くなれば精度が向上します。しかし、選択肢拡散型集合知と違うのは、一定のカテゴリーを越える多様性があっても精度の向上に寄与しないかもしれないということです。これは、どちらかというと当該テーマに詳しいエキスパートによる専門的な知の集合が求められます。また、参加者同士の共同作業(コラボレーション)というのも大きな特徴です。

 

クラウドソーシングは、ある企業が直面する課題の解決手段などを多数のエキスパート(専門家)や顧客・消費者・ユーザー(彼らもある意味使う側のエキスパートと言えます)に求めます。これは、解決の手段という選択肢を幅広く求める「個別インテリジェンスの集合」という意味において選択肢拡散型集合知です。しかし、技術的課題の解決を支援するクラウドソーシングによるオープン・イノベーションは、多様な視点での解決手段というだけでなく、その分野の専門性という意味でのエキスパートの集合知も求められます。ただし、想定していた技術とはまったく異なる技術や方法での解決が出現する可能性も考えると、多様性も必要です。また、ユーザーにアイデアや意見を求めるタイプにおいて、「この製品の長さはどのくらいが良いか」などのかなり絞り込んだ質問をする場合は、計量予測型集合知の要素が入ってきます。しかし、この手の質問は単なるアンケートと変わらないので、従来型のマーケティング・リサーチのパラダイムであり、あえてクラウドソーシングと言うべきものではないでしょう。