VMS(垂直的マーケティング・システム)

VMS(垂直的マーケティング・システム)

By: hasegawa | No Comment | Business Planning, Notes | with , ,

VMS:Vertical Marketing System(垂直的マーケティング・システム、垂直流通システム)とは、流通チャネルにおける垂直方向の対立とそれに起因する多大な取引コストを最小化するために採用される一体的チャネル・システムです。チャネル間の結びつきの強さから3つの類型が考えられます。なお、コトラーらによる「ラテラル・マーケティング」と「バーティカル・マーケティング」の分類とは関係ありません。

かつて、流通における競争は水平方向、同一レイヤーのプレイヤー間での競合関係を主として行われていました。その後、完成品メーカーと小売業者を筆頭に、価格主導権をめぐって垂直方向の取引業者間での競争関係が強くなりました。

 

水平方向の競争

水平方向の競争


 

垂直方向の競争

垂直方向の競争

 

垂直方向での競争が激しくなると取引コストが増大します。そうなると、チャネル・プレイヤーは、チャネル・リーダーのもとに組織取引(チャネルの垂直統合)や中間組織(資本統合をしない連携)を検討し、取引コストの削減を検討します。VMSは、チャネル・リーダーのもとに計画的に目的を共有した一体的な流通チャネル・システムを指します。

 

<VMSの類型>

VMSは、チャネル・リーダー(チャネル・キャプテン)による他のチャネル・プレイヤーの統制・統合の度合いによって3つのシステムに分類されます。

 

VMSの類型

VMSの類型

 

【企業型システム】:Corporate Systems

生産段階と流通段階が単一の資本のもとに垂直統合された流通システムを指します。アパレル業界でSPAと言われるシステムや家具のIKEAに代表される製造小売業と言われる業態が典型的に該当します。小売業が独自商品の製造を始めた場合もこのシステムと考えられます。しかし、米国の流通理論が日本に持ち込まれて以来、この企業型システムは契約型システムとの違いをめぐって論者によって解釈が異なります。自動車ディーラー、化粧品の独立資本販売会社、家電の系列販売店といった別資本ながらも特定メーカーの専売チャネルとして機能している川下小売業者とメーカーの間の関係は、資本統合はされていないながらも日本においては企業型システムに含めて考えることがあります。厳密な言葉の定義を考えれば、これらは次の契約型システムに含まれます。しかし、契約型システムが、FCやVCという特徴的なシステムとして狭義に解釈された場合には、系列小売は企業型システムに含めて考えます。

企業型システムにおいては、単一組織と同じように明確な共通目標を保有し、内部組織と同様の権限と命令による運営がなされます。このシステムを構築するには大きな資本投下が必要となります。不要な取引コストを限りなく削減できる反面、チャネルの維持・管理コストがかかるほか、変化に柔軟に対応しにくいという面もあります。

 

【契約型システム】Contractual Systems

この契約型システムで典型とされているのは、フランチャイズ・チェーン(FC)とボランタリー・チェーン(VC)、およびコーペラティブ・チェーン(日本ではVCに含めています)です。商品力やノウハウなど経営資源の優れた特定のチャネル・リーダーが中心となって、法人格としては独立した企業を契約によって束ねることで、共通の目的のもとに商品・ノウハウ・技術などの共有(特にFC)や共同仕入れ等による規模の経済の追求(特にVC)を図るシステムです。ただし、このシステムも、必ずしも資本的に独立しているかと言うと、そうではなく、チャネル・リーダーが他プレイヤーの資本を緩やかに保有しているケースもあります。そして、次第に資本参加を深めて行き、資本傘下におさめるケースもあります。代表的には、コンビニエンスストアのFC、ドラッグストアのVCなどが挙げられます。

FCは本部と加盟店の契約関係が厳密で、縦方向の組織関係が強く、本部による統制的色彩の濃いシステムです。VCは、卸や小売の個々のプレイヤーが寄り集まって共同本部を立ち上げるため、本部による統制は弱く、加盟店同士の横の連帯とう色彩が濃いシステムです。なお、FCには、商品・商標の提供を主体とした「プロダクト&トレードネームFC」と、商品だけでなく経営ノウハウの提供・指導を重視する「ビジネス・フォーマットFC」の2通りがあります。前者の例は、飲料メーカーとボトラー、後者の例はコンビニやファストフード・チェーンです。

 

【管理型システム】Administered System

チャネル・リーダーが、法人格として独立したたのチャネル・プレイヤーを厳密な契約によらずに組織化し、自らの目標に沿って管理・統制するシステムです。これは、特約店・代理店といった制度が代表的な例と考えられています。たとえば、メーカー・卸・小売の3段階で考えた場合、メーカーが卸売段階に関して、販売地域ごとに卸売業者を選定して自社の優先的販売権を与え、目標販売数量、卸売業者や小売業者に対する支援策、代金の支払い方法などについて契約します。小売開拓は卸売り業者が行います。リテール・サポートとと呼ばれる小売支援施策に関しては、卸を通さずにメーカーが直接小売に働きかける場合もあります。管理型システムは、アスクル・エージェントとよばれる文房具店とメーカーのアスクルの関係がこれに相当します。これは卸抜きのメーカーと小売の2段階の管理型システムです。

管理型システムは、他のシステムに比べて最も資本投下が少ないシステムで、VSMの中ではもっとも市場取引に近い形態です。その分、チャネル・リーダーのチャネル構成員に対する統率力は一般的に緩やかになり、目標の共通化なども限定的です。